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同人サークル「天泣道化」なんてやってるかもしれない冴夜木ヤトによる、気の向くまま萌えの向くままの、とっても腐女子向けなブログ。 参加イベント情報とか発行物情報とかが載るかもしれない。
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Posted : 2024/05/17 16:11
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Posted : 2010/04/26 18:58
昨日の続き。
オリジナルです。
もーちょっと書置き分ありますw


1.


 二年後。火龍州の片隅にて。
 さくりさくりと乾いた大地に微かな足音が響く。初夏の日差しがじわりと体を蝕む午後、短い影を引き連れて、一人道なき道を行くハクヒの姿があった。
 頬を伝う汗を拭い、その手で無造作に切られた黒髪を掻き上げる。灰水色の双眸は暑さを厭う様に細められ、腰に下げられたポーチから地図を取り出すと、溜息と共にそれを広げて目で追った。
「……そろそろか」
 先の街で仕入れた情報によれば、この辺りで目印を見つけられるはずだった。より慎重に足元の土を観察すると、僅かに色の濃くなっている場所がある。近づいてしゃがみ込み目を凝らせば、情報通りの雫型の文様が枯れ草に隠れるように地に刻まれていた。
「ビンゴ」
 短く口内で呟き、感触を確かめるように手を滑らせれば、ざらりとした砂の下、土ではない木のぬくもり。口の端を緩く持ち上げ、立ち上がったハクヒはおもむろにその部分を蹴りつけた。
 がたんと木枠が歪み、上を覆っていた砂が内側に落ち込んでいく。その下からは動揺の気配とざわめきが洩れ聞こえ出す。それを感じながらも、もう一度蹴りつければぽかりと四角い空間が生じ、地下に落ちた木の板が盛大な音を立てた。
 地下から聞こえるざわめきは大きくなり、そこに怒声が混じりだす。それを気にすることなく、ハクヒは開いた空間に無造作とも思える仕草で降り立った。
 その瞬間、ざわめきが止んだ。
 口元には微かな笑み。灰水色の瞳は明度の差に臆すことなく地下を睥睨し、すらりと伸びた長身を包む旅装束が場違いなほど優雅に揺れた。
「聞き飽きてるだろう常套句は省かせてもらう。警告の時期は過ぎた。アンタ達に残されてる道は二つ。大人しく捕まるか、怪我して捕まるか。好きなほうを選べ」
「んだとぉ!?」
「一人でのこのこ乗り込んできて何様のつもりだテメェ!!」
「殺されてぇのかスカシ野郎が!!」
 ハクヒの傲岸不遜な物言いに、場は瞬時に怒声一色に包まれた。腰に佩いた獲物を構える者、ニヤニヤ笑いながら傍観する者、じっとハクヒを見定める者。多くの人間に周りを囲まれながらも、ハクヒの堂々とした立ち姿は揺らぐことがなく。
「…お前、自警団の人間じゃないな。雇われた傭兵という訳でもなさそうだ。…まさか、とは思うが…」
 集団の奥、状況に動じることなくハクヒを見定めていた男の言葉に、薄い笑みが答えとなる。
「そのまさかを考えなかった訳じゃないだろう? カヒル=マグレイア。俺は言った。警告の時期は過ぎた、と。状況を見誤ったのはアンタ達だよ」
「!! 貴様、連盟府の狗か!」
「噛み付かれる直前に気付いても遅いんじゃねぇの? ──連盟府の権限によって、言騙師カヒル=マグレイアとその一派の掃討を開始する! …俗世が惜しい奴は今のうちに去んな。カヒル以外は見逃してやるよ」
 宣言と共に掲げられた左腕のブレスレット。鈍く光を反射するそれに刻まれた文様に、ハクヒを囲んだ男達の数人がヒッと息を呑む。何も乗せられていない天秤と、その後ろにそれを見守るように一つの目。その文様が示すところは一つ。つまり…
「こいつ、本物のハンターだ!」 
「じゃあ、どこかに仲間が居るって事か!?」
 天秤と目の文様のブレスレットは、連盟府が定めるところのハンターである証。そして連盟府に籍を連ねる能力者であれば、確実にツーマンセル以上であることは敵対する者にとってはほぼ常識と言える事。だからこそ、どこかに潜んでいるだろうハクヒの仲間を警戒する彼らは、ある意味で正しい。キョロキョロと目をさ迷わせ出した数人を一笑に付し、ハクヒは泰然とした態度で口を開く。
「残念ながら、探しても誰も出てきやしないよ。俺、団体行動って嫌いでね」
 一人なんだ、安心した?
 馬鹿にした様に告げられた言葉と感じられない気配に、本当に敵が一人らしいと気付いた男達は、口汚く罵りながらハクヒに向かってきた。それを最小限の動きで回避し、するりと人垣を抜けて振り返る。
「ハンターへの明確な敵意・及び殺意を確認。カヒルは連盟府へ連行としても、残りの奴等は警吏に引き渡す、で決定だな」
「きっさまぁああ!!」
「やっちまえ! 丸腰の男一人なんざ、叩き潰して送り返してやらぁ!!」
 言葉と共に再度降りかかる暴力。それをまるで柳が風を受けるが如くするりと避わしては、相手の懐に潜り込み、或いはその足元を払い、的確な一撃で戦闘不能へ追い込む。
「なんだっ!?」
「うろたえるな、畳み込めっ!!」
「一つ、言っとくと」
 僅かに動揺の混じった声を、汚れ一つつけないまま手を払ったハクヒが凛と封じる。
「今更無駄な抵抗は、オススメしねぇんだけどね」
 肩を竦めたその様はどう見ても挑発しているようにしか見えず、いきり立った男達が動き出す前に、再度それを止めたのはカヒルの声だった。
「てめぇら、避けてろッ」
 机に置かれていた水差しを手に取ると、その中身をハクヒの方へと投げつける。察した男達が逃れるようにその道筋を空け、中にたっぷりと詰まっていた水が無数の飛沫となって飛び散る。
『水飛沫ら氷柱となせ!』
 続けられたカヒルのその声が起因となったように。地下の温度が急激に低下した訳でもないのに、水飛沫は瞬時にその姿を氷の飛礫へと変化させ、投げつけられた勢いのままにハクヒへと迫る。
 無数の飛礫は避けようもなく、その全身を痛めつけるかに見えた。それでもハクヒは微動だにせず、喉を震わせた。
『其は水、氷に非ず。水は飛ばず、地を潤すのみ』
 それで終わりだった。
 カヒルの言葉に姿を変えた水は、ハクヒの低く浸透する声に目覚めるように、すぐさま熱の呪縛を解き、威力を失い地に落ちた。
 男達は目と耳を疑う。
 今までカヒルの技を完膚なきまでに捻じ伏せた者など居なかった。自分達の目の前には、血塗れの驕った連盟府の狗が膝をついているはずだった。だというのにこれは何だ。地は水に塗れ、男はどこまでも傲然と立ち続けているではないか。
 カヒルの喉からぐぅと唸り声が洩れる。冷静だった男の頬を、冷たい汗が滑り落ちた。
 起きた事が全てなのだ。
 ただ一度のやりとりで、カヒルには判ってしまった。自分の能力では決して男を屈服させられないことが。そうして改めて男の姿を見詰め、息を呑む。
 まさか、そんな。
「黒い髪、灰水色の目、連盟府に所属していながら単独で言騙師を狩る事を赦されたハンター…」
 こんな辺境の街を救う為に、やって来るわけがない、ありえない。
 否定の言葉を脳内で吐き連ねながらも、判っていた。思った事が事実なのだ。否定される要素など見当たらないのだから。
「へえ、もしかしてこんな辺境のチンピラにまで、くっだらない二つ名が広まってんの。それとも何かな、悪党間の情報網って中央政府の情報局より優秀なのかね。」
「まさか、あの【調整者】がお出ましとはな。それ程連盟府はこの事態を重く見ているとでも言うのか?」
「バッカだね、自分がそんな大層な奴だと思ってんの? おこがましいにも程があるだろ、カヒル。たかだか推定能力B級の言騙師一人に、そんな大層な名前つけられた奴出す訳ないだろ。たまたまだよ、たまたま。一番近くに居たのが、運の悪いことに俺だったってだーけ。大体俺、その名前ご大層過ぎて大ッ嫌いなんだよ。似合わないにも程がある」
 冷めた口調で吐き捨てる姿からは、先程の惹き付けられる様な力を感じない。それがまたカヒルに恐怖を感じさせる。自分より一回りは歳の離れているだろう男が持つ強大な力が、圧迫感となって迫ってくる。
 口を噤んだカヒルに、ハクヒはようやく人の悪い笑みを浮かべた。
「さて、これが本当の最終確認だ。大人しく捕まって更生の余地を得るか、完膚なきまでに叩きのめされ全てを失うか。さて、どうする?」
 視線を動かす。カヒルの目に映るのは、どこか呆然と、そして恐怖を浮かべた瞳で【調整者】を見詰める男達。既に戦意など消えうせている。選べる答えなど、一つしかなかった。
「……わかった。【調整者】、お前の指示に従おう。そいつ等も、従えば殺しはしないんだな?」
 絞るように押し出された回答に、軽く頷きを一つ。
「犯した罪に対する罰は受けてもらう。が、お前達の所業で今の所人死には出ていない。死の罰を与えられることはないさ。──天秤は公平でなければならない。犯した罪には等しい罰を。歪められた言霊はあるべき姿へ。それが連盟府の意思であり、釣り合いを保つのが俺達みたいな奴のお仕事って事さ。…そういう意味じゃ俺も充分はぐれ者だがね」
「…?」
 口中で呟かれた自嘲めいた言葉はカヒルまで届かず、眉を顰めた姿に軽く首を振ってハクヒは告げる。
「言騙師カヒル=マグレイアの身柄は連盟府の預かりとする。これより先、連盟府の許可なく言霊を使うことを禁ずる。禁を破りし時には永久拘束、あるいは言霊の剥奪も有り得る事を忘れぬよう。今後、施設にて身柄を引き渡す迄、ハンターの指示に従い行動せよ」
「……了解した」
項垂れ、諦めの声音で呟いたカヒルに反逆の意思無しと見て、ハクヒは残った男達にも視線を送る。
「カヒル以外の協力者は、直に来るだろう自警団の指示に従いな。大人しくしてりゃ暫く臭い飯食べて出てこれるだろうさ。自警団が来るまでは、俺も此処で待たせてもらうからな、逃げようなんて思うなよ?」
 既に戦意を失くした男達は、ボスの力を簡単に捻じ伏せた男に対し怯えるように目を逸らした。
 それから十数分。
 まるでこの捕り物劇が終わる頃合まで知らされていたかのように自警団が現れた。男達を引き渡し、カヒルを連れ、ようやく出てきた地上でハクヒは一度大きく体を伸ばす。
「さーて、面倒だけど街の互助施設まで行くとするかね」
 ちらりと大人しく着いて来るカヒルを窺い、口の端を持ち上げた。
「判ってるとは思うけど、今更逃げるなよ?」


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ハクヒの口調が定まらなくてすごく悩んでた記憶がありまs←

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自己紹介:
遙か3の景時と4の風早中心に、腐女子的に萌え萌え言ってる人のブログです。
腐女子以外にはあまり優しくない内容が多くなると思われますので苦手な方はご注意ください。

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